2025.9.1

異国の地でも、誰もが働きやすいように。 日本の中小企業で挑む、真のDEI

#外国籍社員の活躍環境づくり #生きがい・働きがいの未来
◉この記事の概要

グループ約2000人中、110人の外国籍社員が働いているソミック(2025年3月の取材時)。彼ら外国籍社員にとって真に働きやすい環境を整え、パフォーマンスを十分に発揮してもらうには、中小企業としてまず何から手をつけたらいいのでしょうか?そんなテーマに真正面から取り組んでいるのが、フィリピン出身のロックスさんです。自身も外国籍の当事者として奮闘しながら、経営学の知見を活かして、アイデアを出していく。その挑戦の現在地を、やりがいと共に聞きました。

 

 

◉この記事の見出し
  • グロービスで学んだことを、活かせる場所はどこだろう?
  • フィリピンで耳にした、他人事でない日本の「危機感」
  • 日本人社員の側も、変わろうと思っていたんだ!
  • 言葉の壁も、文化の壁も、一緒になって乗り越える
  • ソミックを、中小企業のDEIのパイオニアに

 

 

◉お話を聞いた人

 

ジアン マリー ヘルナンデス ロハス

(株)ソミックマネージメントホールディングス 海外人事部 海外人事室。2024年入社。DEI*推進を担当。

* Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとったもので、企業経営において従業員それぞれの個性を活かし、より高い価値を生み出そうとする考え方

 

 

 

グロービスで学んだことを、活かせる場所はどこだろう?

 

ロックスさんは、ソミックマネージメントホールディングスの海外人事部に所属しています。主な仕事はソミックグループのDEIの推進。DEIとはDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとったもので、企業経営において従業員それぞれの個性を活かし、より高い価値を生み出そうとする考え方です。ロックスさんの場合はDEIの中でも特に、外国籍社員の働く環境を整え、一人ひとりが十分にパフォーマンスを発揮してもらうことを目指す取り組みを行っています。

 

 

 

 

Roxさん
もともと人事や経営に興味があり、グロービス経営大学院で経営を学んでいました。そこに石川彰吾さん*が講義に来られ、ソミックって面白い会社だなと思ったんです。トラディショナルな100年企業であるにもかかわらず、本気で変革を目指していて。私もちょうどグロービスで学んだことを活かす先を探していたところでしたから、まずはインターンに入ってみて、その後正式に入社しました。

*ソミックマネージメントホールディングスの取締役副社長

 

 

ロックスさんは英語話者。対してソミックの社内はほとんど日本語です。そのため現在は同じグローバル人事部の社員が一人、ロックスさんの仕事をサポートしており、通訳や社内のキーマンとのアポイント、アンケートの作成や解読を手伝っています。

 

 

Roxさん
彼の存在には本当に助けられています。外国籍の社員はみんな彼にお世話になっていて、“パパ”って呼ばれているんですよ!母国から両親が来たら誰もがこぞって彼に会わせに行きますし、その時にみんながお土産を持ってくるから、彼の家には異国の人形が増えていくと言っていました(笑)

 

 

フィリピンで耳にした、他人事でない日本の「危機感」

 

フィリピン出身のロックスさん。母国での前職は、英会話スクールのスタッフでした。

 

 

Roxさん
日本からもたくさんの方が学びに来るスクールでした。日本人が英語を学びに来る動機は『世界の構造が変化する中、英語を話せるようにならないとまずい』という危機感であることが多く、話を聞くうちに、次第に私も日本の将来がどうなっていくのか興味が湧いてきたんです。フィリピンも政情が不安定で、課題山積みの国ですから、日本人の危機感が他人事に思えなかったのだと思います。

 

 

来日後、彰吾さんを通じてソミックに興味を持ち、そこで働く人々を好きになり、浜松のことも大好きになったと言います。

 

Roxさん
以前も自社の従業員のエンゲージメントや満足度に関わる仕事をしたことがあり、私は根本的に『従業員は何を感じているんだろう?』ということにとても興味があるんですよね。でもこうした興味は会社や従業員のことを好きじゃないと発揮し続けにくいもので、その点、ソミックはインターンに来た時から人が優しくて。ここの人たちのために自分は頑張ろう、会社を良い方に変えていこうと思えました。

 

 

日本人社員の側も、変わろうと思っていたんだ!

 

ソミックの外国籍採用は、時代ごとにその目的を異にします。90年代は工場で働くブラジル人を積極的に採用。2000年代に入ると、海外拠点の増加に伴い日本と海外の橋渡しをしてくれる外国籍人材を採用。そして今は圧倒的な人手不足を背景に、ロックスさんのようにマネジメントを学んだ方や、ICTやAIの専門性を持った方々など、地方ではなかなか採用しづらい人材を外国籍で採用へ。その数は、グループ約2000人中110人、8カ国の外国籍人材に上ります(2025年3月時点)。

 

 

 

 

採用の目的が変わるにつれて、日本人と外国籍社員の関係性も変わってきています。以前は「日本の会社なのだから」と、日本語を話せる人を求め、日本のやり方に合わせてくれるよう外国籍社員に求めてきました。しかし今は日本人の側も変わっていかないといけないという意識が強く、ロックスさんが実施したアンケートにもその実態は映し出されていたようです。

 

 

Roxさん
制度設計の前に現状のニーズを知るべく、日本人社員に向けてアンケートを取ったんです。そしたら日本人の皆さんの多くが『自分たちが英語を頑張って話せるようにならないといけない』『外国籍社員とコミュニケーションを取ろうと頑張っている』と思っているとわかりました。実は、正直、この結果に私はとても驚きました。私はそれまで自分たち外国籍側が常に勉強し、日本の文化に馴染まないといけない、日本人はそれを待っているんだと思っていたので。一方、私のサポートをしてくれている日本人社員はアンケートの結果に納得していて、『みんな変わろうとしているとは思っていたよ』と。感じ方にはまだまだギャップがあるんだなと思い知りました。

 

 

言葉の壁も、文化の壁も、一緒になって乗り越える

 

外国籍当事者としてのロックスさんの感覚と、アンケートの結果を受けて、ロックスさんはまず「言葉の壁」に取り組もうとしています。

 

 

Roxさん
現在ソミック内にある書類のほとんどは日本語のみで存在しているので、それを英語にどんどん作り変えていきたいと思っています。というのも、アンケートで、ほとんどの外国籍社員が言語の問題を感じていると答えたんです。まずは会社の方針や福利厚生といった、全員に関係する文書から英語にしていき、情報の格差是正や働きやすさにつなげられたらと思っています。長期的には日本人に英語を学ぶ機会も提供したいですね。

 

 

実はロックスさん、インターンの時には「バディ制度」というものを会社に提案しています。バディ制度とは仕事を教える先輩後輩関係とはやや異なり、外国籍社員が日本の会社のカルチャーに馴染むことをサポートする存在のこと。

 

 

Roxさん
たとえば海外だとストレートに相手にタスクを頼めばいいようなメールも、日本ではタスクの前後に丁寧に言葉を足してお願いをしますよね。そうしたことが一つわかるだけでも文化に沿ったアクションを取れます。それに、上司や先輩には聞きにくいような些細なことを気軽に相談できる“横のつながり”があれば、とても心強いと思ったんです。今は、一対一ではなく“各グループのバディ”のような形で各部署にヘルプデスクのようなものを置くのがいいんじゃないかと思っています。

 

 

社内の英語の総量を増やし、また外国籍社員の側も日本の文化に馴染めるようにサポートしていく。互いが互いに近づいていくやり方を、ロックスさんはまだまだ模索している最中だと言います。

 

 

ソミックを、中小企業のDEIのパイオニアに

 

最後に、ロックスさんがDEI推進に情熱を傾ける理由をお聞きしてみました。

 

Roxさん
もちろん、これが成功すれば自分の実績になるから、という自分主体の側面もありますよ。だけどそれだけじゃなく、やはりリソースの少ない中小企業で外国籍社員の働きやすさを実現し、効果のあったアイデアや仕組みを他の中小企業にまで横展開できれば、それは大企業には生み出せない価値になるんじゃないかと思っているんです。つまり、私はソミックを中小企業のDEIにおけるパイオニアにしたいのです。……と大きいことを言いつつ、実際には悪戦苦闘をしているわけですが、でもなんとか外国籍のみんなを助けてあげたい、そんな気持ちです。

 

 

 

 

DEIのゴールは人々がお互いをリスペクトし合い、本当の調和を感じられることだと話すロックスさん。潤沢な予算がなくても、何もかもが揃わなくても、多くの人が取り入れられる「仕組み」を創造することで、その調和を生み出してみせる。そんな革新の最先端で、ロックスさんは今日も奮闘を続けています。