2025.9.1

「やってみたら、自分もできた!」 アイデアを生み出す自信と楽しさを、 遠州地域の子どもたちに

#生きがい・働きがいの未来 #機会格差是正 #コミュニティの未来
◉この記事の概要

2024年度より、一般社団法人CREATION DRIVEとの共同で開催している「BE CREATIVE! ENSHU」。これは年3回のプログラムを通じて遠州地方の中高生がデザイン思考*を学び、アイデアや価値を生み出すことへの自信を高めてもらうことを目指す取り組みです。実は、CREATION DRIVEにとっても、首都圏以外でこうしたプログラムを実施するのは初めて。なぜソミックとのパートナーシップが結ばれ、開催に至ったのか。地方開催の意義をCREATION DRIVEはどう捉えているのか。CREATION DRIVEの伊藤さんと中谷さんに伺いました。

 

*デザイン思考…新たな製品やサービス、事業を生み出すための考え方の1つ。「ユーザー1人ひとりの生活や価値観をふかく理解して新しい価値につながるヒントをつかむこと」「提供したいユーザー体験を再現するプロトタイプをつくってアイデアの価値をたしかめること」が特徴。

 

 

◉この記事の見出し
  • 成長を長期的に支えるための、体系化されたプログラム
  • アイデアを生み出すのは、こんなにも楽しいんだ!
  • 何かを教える前から、すでに格差が生まれている
  • 手、足、頭、フル活用!自分たちだけの力で、アイデアを形にする
  • 生み出したいのは、地方における人材成長のエコシステム

 

 

◉お話を聞いた人

 

伊藤誉人(いとう たかと)

東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻修士課程修了。東大発イノベーション教育プログラムi.school修了。2021年よりCURIO SCHOOLに入社し、中高生向け教育プログラムの事業責任者を務める。2023年に一般社団法人CREATION DRIVEを設立。同法人の代表理事を務めている。

中谷夏見(なかたに なつみ)

慶應義塾大学を卒業後、リクルート社にて新規事業開発、及び学校向け教育プログラムの営業に従事。2017年よりCURIO SCHOOLに転職し、企業と中高生・大学生をつなぐプログラムのコーディネーター、中高生・大学生コミュニティのマネージャーを務める。2023年に一般社団法人CREATION DRIVEを設立。同法人の理事を務めている。

成長を長期的に支えるための、体系化されたプログラム

 

デザイン思考をベースとした学校・企業の教育プログラムや事業開発の支援を行う(株)CURIO SCHOOLの、社会的(非営利)事業だけを分社化した組織。それが一般社団法人CREATION DRIVEです。

 

 

伊藤さん
CREATION DRIVEでは、企業から予算やテーマをもらわないことで『企業にとっての成果に繋げなければ』というプレッシャーをなくし、より純粋に『参加者たちの学び』という教育的成果にフォーカスしたプログラム運営を行っています。

 

 

CREATION DRIVEの提供するプログラムには、人の成長を長期的に支えるため、「インスパイア」「エクスプローラ」「アクセラレート」の三段階が用意されています。

 

 

 

 

中谷さん
2024年度のBE CREATIVE! ENSHUでは、インスパイアの段階にあたる中高生対象のプログラムとして、デザイン思考を初歩から学び実践する『MONO-COTO CHALLENGE ENSHU』、大学生や社会人と共に地域の問題解決に挑戦する『CO-CREATION PROGRAM ENSHU』、そして参加者を中心とした地域のコミュニティイベント『CONNECT GATHERING ENSHU』を実施しました。

 

 

アイデアを生み出すのは、こんなにも楽しいんだ!

 

そもそもなぜお二人は、デザイン思考と価値創造に興味を持ち、今の仕事をしているのでしょうか。

 

伊藤さん
私は大学でたまたまデザイン思考のワークショップに参加する機会があったんです。そこでアイデアを考えることの面白さを知り、学生時代は一貫してアイデアとイノベーションについて研究していました。とにかく最初の出発点は、『アイデアを考えるのって楽しい!』という感覚。これを味わう機会を社会に広く提供したいという想いが、今の活動につながっています。

 

 

 

 

一方の中谷さんは、二十歳の頃、デザイン思考発祥の地であるスタンフォード大学に行くプログラムに参加。そのプログラムの中でデザイン思考を学んだことが、興味を持つきっかけになったそうです。

 

中谷さん
デザイン思考をインプットした後、世の中の見え方がこれまでと少し変わった感覚があったんです。自分の中にある“何かを生み出す力”に自信が持てたというか。『もっと早く知りたかったなぁ、小学生や中学生のうちに……』と思ったのが原点です。

 

 

何かを教える前から、すでに格差が生まれている

 

ソミックとCREATION DRIVEの出会いは2024年。両者は出会ってすぐ意気投合したのだそうです。

 

伊藤さん
ソミックさんの印象は、とにかくパワフルでビジョナリー。そもそも私たちはスポンサーではなくパートナーとして肩を組める企業を探していたので、同じ景色を見られるかどうか、同じ未来を目指せるかどうかが何より大事でした。その点ソミックさんの“ソミック・ソサエティ”は私たちのビジョンとも重なるところがあり、逆に私たちが『このプロジェクトは長期的にやってこそインパクトが出せる』と10年先20年先、いや100年先といった未来の話をしたときも、『確かにそうだよね!』とすぐに前向きなご反応をいただけて、とても嬉しかったのを覚えています。

 

 

当時、CREATION DRIVEでは、どうすれば地域で自社のプログラムを実施できるか模索していたところでした。背景には、首都圏で10年以上プログラムを行ううちに見えてきた「教育の地域格差」があったのです。

 

 

 

 

伊藤さん
私たちのプログラムは定員が限られるため、参加者を選考課題で選抜する必要があります。しかし、蓋を開ければ応募者も参加者も大半が首都圏の中高生になってしまうんです。理由は二つあります。一つは首都圏の中高生は授業で似たような活動をして、アイデアを考えることにすでに慣れていたりと、選考課題の時点でアウトプットの質が地方より高くなりがちなこと。もう一つはやはり物理的な距離で、参加費は不要とはいえ交通費をかけて東京まで泊まりがけで飛び込んでくるのはハードルが高い。この課題を解決するには、私たちの側が地方に出ていくしかないと思っていました。

 

 

教える前から差がついているという、ある意味でショッキングな現実。しかし、その現実に同じ想いで立ち向かってくれる初の地域パートナーがソミックだったのです。

 

中谷さん
彰吾さんたちの遠州地域の人材育成に対する熱い想いに触れ、『本当にこういう企業さんがいるんだ』と感動しました。そんなソミックさんにパートナーになっていただけたことで、私たちの方が自信を持てました。すごく大きな存在です。

 

 

手、足、頭、フル活用!自分たちだけの力で、アイデアを形にする

 

2024年11月、待望の第一回BE CREATIVE! ENSHUが行われました。おや?会場の後ろに、ダンボールに模造紙、テープ、紙皿など、さまざまなモノが並んでいます。

 

 

 

 

伊藤さん
アイデアのプロトタイプをその場でつくれるよう、基本的な材料は用意してあるんです。

 

 

 

 

デザイン思考では、実際に足を運んでフィールドワークをすることや、考えすぎずに手を動かしてみることを推奨しており、CREATION DRIVEでも全てのプログラムで「とにかく足や手を動かそう」というマインドを伝えているのだそうです。

 

中谷さん
遠州の子も首都圏の子も、すぐに立ち上がって会場の後ろにつくりに行くのは同じですね!

 

 

参加者の自発的なアクションを促すために、プログラム中、大人たちはほとんど介入しないのだそう。

 

伊藤さん
各チームにサポーターをつけて、手取り足取りワークをサポートするやり方もあるとは思うんです。でもそれをやってしまうとサポーターありきの取り組み方になってしまいますし、自主性や創造性が思う存分発揮できません。サポートデスクのような、困った時に頼れる場所はつくりますが、基本的には参加者を信頼して裁量を与えています。ワークの時間もあまり区切っていません。所々でショートピッチの時間を設け、考えていることを伝えていただいてこちらからフィードバックをする程度で、それ以外はフリーでやるのが、参加者が創造力を最大限に発揮できる場をつくるためのポイントかなと思います。

 

 

 

 

生み出したいのは、地方における人財成長のエコシステム

 

初年度を終え、お二人は遠州地域の子どもたちの印象を、「真面目で素直でポテンシャルが高い。でも、自己評価が低い」と語ります。

 

伊藤さん
実際にやってみれば皆すごくよくできるんです。でも、やる前には多くの子が『新しいものを作ることに対して自信がない』と思っている。要はクリエイティブコンフィデンスが低い傾向は見て取れました。おそらく首都圏の子たちは学校が普段からこうした取り組みに力を入れているところも多く、学外のプログラムにもアクセスしやすく、成功体験の多さが自然と自信になっているんでしょうね。ただ、こうした差に実際に触れて、改めて私たちがBE CREATIVE! ENSHUで地域の子どもたちの自信を引き上げていくことの価値は大きいと感じました。
中谷さん
一方で地方の良いところもあって。第一回目、第二回目ともに、プログラム終了後の懇親会で中高生たちがソミックの社員さんと熱心に話しこむ様子が見られたんです。企業とのこうした触れ合いは東京にはほぼありません。また地元の企業に素敵な方々がいるとわかるだけでも中高生は前向きになれるだろうなと感じました。

 

 

こうした人と人とのつながりを育てていくため、2025年度以降はプログラムと並行してコミュニティイベントにも力を入れていく予定です。

 

 

 

 

中谷さん
2024年度の第三回目のプログラムがまさにコミュニティイベントでした。これまでの参加者が再集結して同世代の絆を深めることに加え、社会で新しい価値をつくる取り組みに従事している大学生や社会人をゲストでお招きして話してもらったんです。話を聞いて刺激を受け、『こういう道もあるんだ』と人生の選択肢を増やしてもらうのが狙いです。実は、東京ではこれを10年続けており、今や『MONO-COTO INNOVATION』を卒業した社会人が登壇にくるんですよね。遠州でも5年10年と続けていくと、きっと同様に卒業生が戻ってきて話してくれます。そうなると素晴らしい育成の循環が発生します。

 

 

中高時代から社会人に至るまで、価値創造人材としての成長を支えるエコシステム。それがまさに、ソミックとCREATION DRIVEが遠州に創造したいと願う新しい価値です。2年目に突入するBE CREATIVE! ENSHUの、「循環」1周目はこれから。どんな化学反応が起きるのか、期待が高まっています!