2025.9.1

キャリアは一人ひとつじゃない。「諦めなくていい」環境が、 さまざまな可能性を広げてくれる

#製造業の未来 #生きがい・働きがいの未来 #製造業における新しい働き方づくり
◉この記事の概要

ソミックグループに所属する2000人ほどの社員の中で、裁量労働制*を活用して兼業副業制度で副業をしている人がいます。グローバル経営変革推進部に所属しながら高校教師として働いている市川さんです。市川さんがなぜ教師であり続けようとしたのか、二つの職業がそれぞれにどう影響しあっているのか。何より市川さんは兼業副業制度の意義をどう感じているのか、お話を伺いました。

 

*労働者が自分の裁量で仕事の進め方や労働時間を決め、働いたことへの成果に対して報酬が支払われる制度

 

 

◉この記事の見出し
  • 午前は高校教師、午後は会社員
  • 理論上、制度の併用が可能なら、教師にも戻れるのでは?
  • 共通する本質は、「相手の納得感の醸成」
  • 思い切って仕事を渡したら大きな成果につながった
  • 「やってもいい」が前提にあって、人は自分の可能性に気づける

 

 

◉お話を聞いた人

 

市川香織(いちかわ かおり)

新卒から6年間高校の地歴・公民教師として働いたのち、2020年にソミック石川入社。現在はグローバル経営変革推進部コミュニケーション推進室でブランディング業務に従事している。

 

 

午前は高校教師、午後は会社員

 

ソミックマネージメントホールディングスのグローバル経営変革推進部に所属する市川さん。現在、兼業副業制度を利用し、毎週水曜日の午前中だけ浜松市内の高校で非常勤講師をしています。

 

 

市川さん
1〜4限を教えて午後から出社しています。受け持っているのは高校1年生のクラスです。前年度は2限ずつに分けて週2日教えに行っていたのですが、移動時間の効率化のため今年度は1日にまとめました。

 

 

大学で西洋史学を専攻していた市川さんは、中学校社会、高校の地理歴史、および高校の公民の教員免許を持っています。ソミックに入社する前の6年間は、高校の教員をしていました。

 

 

 

 

市川さん
実は数年前に学習指導要領が改訂され、新しく『歴史総合』という科目が誕生したんです。私が教諭をしていた時代にはなかった科目で、私は今それを教えています。基礎的な内容ですから、幸いにして教える上でのこちらの知識量が問題になることはないのですが、授業の教材は以前のものを使いまわせないため完全にイチからです。週末のどちらか一日は、授業づくりや採点に使っていますね。

 

 

理論上、制度の併用が可能なら、教師にも戻れるのでは?

 

ソミックにおける兼業副業制度は2022年度に導入されています。導入当時、兼業副業は「基本的に就業時間外のみ認めるもの」と想定されており、現在の市川さんのように平日の日中にソミック以外の業務を行うことはできませんでした。しかし2023年度から裁量労働制が新しく誕生し、市川さんは思います。

 

 

市川さん
裁量労働制*と兼業副業制度、二つを組み合わせれば理論上、裁量労働制には「勤務しなければいけない時間」という概念がないため、副業ができるはずだから、教員の仕事もできるのではないかと思ったんです。早速上司と人事部に問い合わせたところ、『できる』と回答が得られました

*労働者が自分の裁量で仕事の進め方や労働時間を決め、働いたことへの成果に対して報酬が支払われる制度

 

 

もとより母校の先生とは定期的に連絡を取っていた市川さん。学校現場における教員不足がどれだけ深刻かもよく聞いて知っていました。

 

 

市川さん
私が教えに行くことで、教員不足という社会課題の解決に少しでも貢献できるのなら意義があるのではないかと考えたんです。制度の併用については人事も想定していなかったようですが、柔軟に許可してくれて、晴れて2023年度から教員という副業を始められることになりました。

 

 

共通する本質は、「相手の納得感の醸成」

 

副業を始めて苦労したのは、まず体力面、そして生徒たちに「勉強することの意義を教える」ことだったそうです。

 

 

市川さん
なぜ授業を受けないといけないのか。成績って必要なのか。歴史を学ぶことが将来にどう役に立つのか……こうしたことを教えるのは、授業の中身を教えることよりずっと大変です。教諭のときは生徒との授業時間外でのつながりもあり、その中で指導することができるので根気強く伝えることができたんです。それが週1日、しかも授業内だけの関わりになると、相互理解や信頼というベースが不完全なままに指導することになるので、余計に難しさがありました。

 

 

4時間連続の授業で精神的にも体力的にも疲弊しつつ、しかもその後は会社員として切り替え出勤する、これが大変だったと市川さんは話します。

 

 

 

 

市川さん
ただ、『なぜ◯◯をしないといけないのか』という物事の意義を伝えるという部分は、今会社で推進しているインナーブランディングと同じです。こちらがどれだけ力を注いでも、「なぜ」を伝えて、相手に納得を持ってもらえなければ無意味。”納得感の醸成”がどちらも本当に大切です。

 

 

思い切って仕事を渡したら、大きな成果につながった

 

副業を始めて、日中同僚と接する時間が少なくなったことから、市川さんは、仕事のやり方を一つ変えてみることにしました。

 

 

市川さん
他の仲間に、これまでは一部を切り分けてお願いしたり、一緒に付いてやったりしていた業務を思い切ってまるっとお願いしてみるようにしました。もちろん丸投げではなく、『きっとできるだろうな』と思ったら信頼して任せる、という感じで。そしたら全く問題なくこなしてくれるし、渡した仕事を通じてどんどんできることが増え、チームとしてやれることも広がっていきました。非常に嬉しい発見でした。

 

 

そして、会社で仕事をしていることが、生徒と向き合うときにプラスになることもあったそうです。

 

 

市川さん
『なぜその勉強が必要なのか』を伝える際のボキャブラリーが圧倒的に増えたんです。なぜなら自分が現在進行形で「会社員」をしているから。会社の仕事での具体的な場面、人間関係、そういったものを事例に出して『今これを身につけると、将来こういう場面で役に立つよ』とすぐに伝えられるし説得力がある。以前であれば『黙ってやりなさーい!』だったかもしれないところを(笑)。生徒とつながっている時間の少なさは、そういう面で多少補えているかもしれません。

 

 

 

 

「やってもいい」が前提にあって、人は自分の可能性に気づける

 

実は、市川さんは2024年度で教員としての副業を辞め、2025年度からはソミック一本に戻りました。

 

 

市川さん
思い切って仲間に仕事を渡したら、その人のやれることが広がったのが自身の中に強く残っていて。こんなにも一人ひとりに可能性が眠っているのだから、誰もがやりたいことには挑戦しなくちゃもったいないし、次は他の人の『やってみたい』をサポートできたらいいなと思ったんです。それに私だけが兼業副業制度を引っ張っているように見えるよりは、あっちでもこっちでも、みんなが多彩な副業をしている状態になってほしい、バトンタッチのときだな、と。

 

 

兼業副業制度を利用してみて、市川さんは制度の意義を「人生の可能性を広げてくれるもの」と表現します。

 

 

市川さん
私はこれまで、キャリアって一個だと思っていたんです。教員に戻りたければビジネスマンとしての自分は諦めないといけないし、逆もまた然りで、必ず取捨選択をしないといけないのだと思っていました。でも制度ができたことによって、一つに絞らなくてもいい、諦めなくていい選択肢ができたんです。『そういうこともできるんだ、やってもいいんだ』という状態が前提にあって、人は初めて自分の可能性が見えてきたりするものですから、制度ができたことで人生にもキャリアにも可能性が広がる人は多いのではないでしょうか。

 

 

 

 

副業はあくまでも選択肢なので、「誰もが副業すべき」だとは思っていないという市川さん。自身が楽しく取り組み、成果を出す姿を通して副業をポジティブなものとしてキャッチしてもらえれば、自然と誰かが次に続いてくれるのではと思って2年間駆け抜けてきたと言います。

 

 

市川さん
加えて自分のケースでは“教員不足”という社会課題への解決策も一つ提示できたのではないかと思います。充実した2年間でした。

 

 

ソミックグループでは、自身の「やりたい」に躊躇わずに挑戦する社員が増えることを願って制度を整えています。今後も人事部門が予想だにしなかった制度の使い方を希望する人が現れることに期待し、柔軟な制度運用を続けていきます。